コラム「公認会計士法の改正」
令和4年5月11日に「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が成立し,同月18日に公布されました(令和4年法第41号)。施行は,一部規定を除き、公布日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。
1 改正の経緯
近年,上場会社における監査では,担い手が大手監査法人から中小の監査法人にシフトする傾向があること,他方で,監査における重要な検討事項(KAM)の報告など,監査人による情報発信の重要性が高まっていることなどの監査をめぐる環境の変化を踏まえ,中小監査法人をも含む,監査の体制を確保する仕組みを強化し,会計監査に対する信頼を確保する必要があると判断されたものです。
本改正は多岐に渡りますが,紙幅の関係で上場会社の監査を担う監査事務所の規律の強化についてのみご紹介します。
2 上場会社の監査を担う監査事務所の規律
(1) 公認会計士及び監査法人は、日本公認会計士協会による上場会社等監査人名簿への登録を受けなければ、上場会社の財務書類について監査業務を行つてはならない旨が規定されました(改正公認会計士法(以下「改正」と記す)34条の34の2)。
上場会社等監査人名簿は,従来,公認会計士協会の自主規律として,上場会社の監査を担うにふさわしい公認会計士・監査法人を登録してきましたが,同制度を法的な規律としました。
登録の適格性の確認は日本公認会計士協会が担いますが,登録拒否事由としては,一定の処分を受けてから一定日時を経ていない場合などのほか,監査業務を的確に遂行する体制整備が行われていないときをも法定しています(改正34条の34の6第1項5号)。
公認会計士法の規律に対応して,金融商品取引法も改正され,同法193条の2に定める監査証明は,上記の登録を受けた公認会計士又は監査法人に限る旨が規定されています。
なお,会社法上の会計監査人監査については規制の対象外です。
(2) 公認会計士である登録上場会社等監査人が,上場会社の財務書類について監査業務を行う場合には,①上場会社等監査人登録を受けた監査法人と共同して行うこと,または② 政令で定める数以上の他の上場会社等監査人登録を受けた公認会計士と共同し、かつ、補助者として使用する他の公認会計士の数を合計した数が政令で定める数以上であることが求められます(改正34条の34の13)。政令で定める数は,監査法人については5人以上の公認会計士を社員に含むことが求められていること(公認会計士法34条の7第1項)等を踏まえて今後制定されることになると思います。
(3) 登録上場会社等監査人は、内閣府令で定めるところにより、業務の品質の管理の状況を適切に評価し、その結果を公表する体制、上場会社の監査業務を公正かつ的確に遂行するための業務管理体制を整備することが求められます(改正34条の34の14)。
現在大手監査法人についてのみ遵守が求められている「監査法人のガバナンス・コード」を登録上場会社等監査人すべてが受け入れることが想定されているようですが,中小の監査事務所にも対応するよう,同コード自体の改正も視野に入れられています。
(4) なお,本規定により上場会社の監査資格を失う監査事務所については,本法施行日から起算して二週間以内に必要な届出をしたときは、施行日から起算して一年六月間は、引き続き、当該業務を行うことができることとされ(本法附則3条条1項、4条1項),また,上場会社等監査人名簿への登録申請を拒否された場合であっても、拒否処分の日前に上場会社等と締結した監査契約に係る監査証明業務に限り、引き続き行うことができることとされています(本法附則三条二項)。
客員弁護士 片木晴彦
令和4年7月31日執筆