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コラム「消費者被害回復訴訟における「オプト・イン」と「オプト・アウト」」

多数の消費者が事業者の悪質商法など不当な行為によって被害を被った場合に、消費者団体が個々の消費者に代わって、事業者に対して損害賠償を求めることができる制度が、「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例法(消費者裁判手続特例法)」(2013年公布)によって設けられ、2016年10月から施行されています。

 

この制度では、同一事業者の不当な商法などによって多数の消費者が被害を受けた場合に、内閣総理大臣の適格認定を受けた消費者団体(特定適格消費者団体)が、個々の消費者に代わって、事業者を訴えて、まず、事業者に損害賠償責任があることを認める判決または和解を得ます(第1段階)。その後、消費者団体は、被害を受けた消費者に当該訴訟及び判決・和解等に関する情報を提供した上で、個々の被害者からの依頼(授権)を取り付けて、事業者との協議または裁判手続によって賠償額を確定して、届け出た消費者に対して事業者から賠償金が支払われます(第2段階)。

同様の制度は、フランス、ベルギーなどにも見られますが、わが国では、制度の担い手である消費者団体の財政的基盤が十分でないために、被害を受けた消費者を捜して、手続の依頼を受けるために必要な多額の費用を負担することが難しいなどの事情から、制度の施行後5年で、この制度が利用されたのは学納金返還の事件など4件にとどまります。

 

企業の不法行為などによって被害を受けた多数の者を救済するための制度として、米国で広く利用されているのは、クラス・アクションです。

この制度では、企業などの行為によって同様の被害を受けた多数の者(クラス構成員)のうちから代表者が選ばれて、加害企業等に対する訴訟を提起し、判決または和解に至った場合には、その効力は、当該訴訟への関与の有無を問わず、同様の被害を受けた者(クラス構成員)全員に及ぶとされます。

日本の消費者団体による被害回復訴訟では、判決・和解の効力が及ぶのは、消費者団体に賠償額確定手続の授権をすることで、当該手続への参加の意思を示した消費者に限られますが、米国のクラス・アクションでは、裁判所からクラス・アクションの告知を受けた者はすべて、当該訴訟のクラスから離脱する旨(オプト・アウト:opt-out)の意思表示をしない限り、勝敗にかかわらず判決・和解の効力を受けることになります。

 

訴訟手続に参加しない者が訴訟手続の効力を受ける要件という点から見れば、米国のクラス・アクションは、手続から離脱する旨の意思表示をしない限り効力を受けるオプト・アウト型の手続であるのに対して、日本の手続は被害者が手続への参加の意思を示すことが手続の効力を受ける要件となるオプト・イン(opt-in)型の手続ということになります。

米国でオプト・アウト型が導入されている背景には、不法行為による利得を加害者のもとに残さないという考え方があるようですが、日本の制度では、被害者は自己の権利について自由に決定できなければならないという点が重視されているように思います。

 

オプト・アウト型かオプト・イン型かという議論は、臓器提供の意思表示の問題などについてもあるようですが、当事者が積極的な意思表示をしない場合に(一般には積極的な意思表示がない場合が多くなります)、当該制度・手続を利用する選択がされたとみなすか否かという意味で、制度・手続のあり方を決める議論です。

 

客員弁護士 田邊 誠

2021年11月30日執筆