コラム「後継ぎ遺贈と受益者連続信託」
1 後継ぎ遺贈とは、遺言者が死亡して遺言の効力が発生した後に遺産を譲り受けた受遺者が死亡しても、その受遺者の相続人に遺贈の目的物を相続させるのではなく、被相続人(遺言者)の指定する者に、遺贈の目的物を与えるとするタイプの遺贈です。たとえば、「自分の死後、賃貸マンションの所有権は甲に遺贈する。甲が死亡した後は、同マンションの所有権をCに譲る」との遺言が後継ぎ遺贈にあたります。
後継ぎ遺贈は、被相続人の死亡後における相続人の生活の保障を図ることや、事業を特定の相続人に承継させるための手法として考えられるものですが、その効力については学説上議論があり、無効とする考え方が有力です。後継ぎ遺贈を無効とする考え方は、後継ぎ遺贈を有効とすれば第1次遺贈の受遺者(上記例での甲)の所有権を民法の認めていない期限付所有権と評価することになってしまい、物権法定主義(民法185条)に反すると考えられることなどを論拠としています。
また、後継ぎ遺贈に関する判例とされる最判昭和58年3月18日は、ここでの問題を後継ぎ遺贈の有効・無効の問題として論じることなく、遺言の解釈の問題としてとらえています。同最判は、遺言者の真意を探求して条項の趣旨を探求するべきことを述べ、同種の文言が用いられている場合でも、幾つかの解釈可能性があることを例示して指摘したうえで、第1次遺贈の条項に効力がないとした原審判断を破棄して差し戻しをしました。例示された解釈可能性のなかに、後継ぎ遺贈をあげているようにも思われるところもありますが、最高裁判所が後継ぎ遺贈が有効であることまで判断したといえるかは明らかではありません。
以上のように後継ぎ遺贈の有効性には議論がありますから、遺言で後継ぎ遺贈を定めても、望んだ承継が将来生じないというリスクがあることになります。
2 後継ぎ遺贈と機能的に共通する制度として、受益者連続信託(信託法91条)があります。上記のように後継ぎ遺贈にはリスクが伴いますから、後継ぎ遺贈の効果を望む被相続人としては受益者連続信託を用いることが考えられます。
受益者連続信託とは「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託」をいいます(信託法91条)(なお、同条は、死者が将来の財産の帰趨を永遠に指定し、他者を拘束するのを避けるため「当該信託がされたときから30年を経過したとき以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益者が消滅するまでの間、その効力を有する」という限定を付しています。)。遺言によって信託を設定することもできます(信託法4条2項。遺言信託)。
受益者連続信託が設定されることにより、被相続人は、自己の所有する財産を受託者に信託し、その信託受益者を順次に指定することができます。後継ぎ遺贈の方法によらなくても、自己の財産を信託受益化し、第1次受益者、第2受益者…というように受益者を指定することで、相続制度のもとでは達し得ない自己所有財産の将来の帰趨をも自らの意思で決定することができることになります。
客員弁護士 小濱意三
2024年1月7日執筆