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コラム「消費者契約法の改正~免責の範囲が不明確な条項の無効」

1 令和4年5月25日、消費者契約法等の一部を改正する法律が成立しました。消費者契約法は、消費者と事業者との間で締結される消費者契約全般に適用される民事ルールで、事業者による不当な契約条項の使用や不当な勧誘行為を規制することにより、消費者の利益を守るとともに適切な市場環境を維持するため法律です。本コラムでは、今回の消費者契約法の改正内容のうち、最も重要な改正内容であると思われる「免責の範囲が不明確な条項の無効」(改正後の消費者契約法第8条第3項)について説明をします。

 

2 消費者契約法では、消費者の権利を不当に制限する一定の契約条項を無効とすることを定めています。この不当契約条項の一つとして、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任を免責もしくは制限する条項があります。

具体的には、事業者の故意もしくは重過失により生じた債務不履行や不法行為による損害賠償責任を免責する条項は、責任の全部を免責するものであれ、一部の免責をするものであれ、無効とされます。一方、事業者の軽過失により生じた債務不履行や不法行為による損害賠償責任を免責する条項については、責任の全部を免責する条項は無効とされるものの、事業者の賠償責任額の上限を定める条項のように責任の範囲を一部に制限する条項は有効とされています(法第8条1項。同条2項による適用除外は割愛します)。

 

しかし、一般に用いられている消費者契約の条項の中には、上記のように本来は軽過失による場合に限って有効と認められるはずの事業者の責任制限条項につき、軽過失に限定されることを明示せず、例えば「法令に反しない限り、〇〇万円を上限として賠償します」といった規定の仕方をするものが見受けられます。このような条項は、専門家がきちんと解釈すれば、「法令に反しない限り」という文言によって、この条項は事業者に故意や重過失がある場合には適用されないことが分かるとも言えるのですが、一般の消費者にはそのような解釈は直ちにはできません。そして、法律による許容範囲を判断できないため、消費者が被害を受けたとしても、事業者に対する請求を躊躇してしまうといった効果が生じると考えられます。

 

このようなことから、改正法では、事業者のこれらの責任を制限する条項につき、当該条項において軽過失(法文上は「重大な過失を除く過失」と表されます)による場合に限って適用されるものであることを明らかにしていないものは無効とすることが定められました(改正法第8条3項)。

この規定により、例えば「法令に反しない限り、〇〇万円を上限として賠償します」といった条項は軽過失による場合に限って適用されることが明らかであるとはいえないので無効とされることになります(この場合、軽過失の一部免責も認められません。)。他方、「軽過失の場合は〇〇万円を上限として賠償します」という条項であれば有効です。

 

3 消費者契約法の改正部分については令和5年6月1日から施行されます。消費者向けビジネスを展開している事業者としては、契約の条項に責任の一部を免除する旨の条項を設けている場合には、当該条項において軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしているかをチェックし、必要に応じて条項を修正することが必要になるでしょう。

 

客員弁護士 小濱意三

2022年10月31日執筆