コラム「ユニオン・ショップ協定をめぐる実務上の法的留意点」
1 ユニオン・ショップ協定の広範な普及
ユニオン・ショップ協定とは、①従業員は全員組合員でなければならないとする組合締付条項と②組合に加入しない者、組合を脱退した者、組合から除名された者を使用者が解雇しなければならない義務を負う解雇条項からなる労働協約ないしその一条項(労働組合と使用者の合意)をいいます。わが国では労働組合の存する企業において組織強制の一手段としてユニオン・ショップ協定が広範に普及しています。
通説・判例(日本食塩製造事件・最二小判昭50・4・25民集29巻4号456頁)は、団結強化の観点から憲法28条の団結権がユニオン・ショップ協定を許容していて適法性が認められると解しており、したがってユニオン・ショップ協定に基づく解雇も権利濫用とならず適法であることになります。また、労働組合法7条1号但書も、過半数組合とのユニオン・ショップ協定が不当労働行為とならない旨を確認しています。
このようなユニオン・ショップ協定ではありますが、実務上、次に述べるようないくつかの留意点があり、トラブルを避けるために十分注意しなければなりません。
2 ユニオン・ショップ協定締結組合の要件
労働組合であればいかなる組合でもユニオン・ショップ協定を締結することができるわけではありません。
少数者が多数者を強制することはできないので、ことの理からして締結単位(企業ないし事業場)の従業員の過半数を占める組合でないとユニオン・ショップ協定を締結することはできないと解されます(労働組合法7条1号但書も参照)。使用者は締結に当たり過半数要件を確認する必要があります。
3 労働者はいつまでに労働組合に加入しないと解雇されることになるのか
新入社員は合理的相当期間内(概ね1か月程度以内)に組合に加入すれば解雇されないとされています(京都全但タクシー事件・京都地判昭37・11・30労民集13巻6号1140頁、信州名鉄運輸ショップ制解雇事件・長野地松本支判昭43・3・27労民集19巻2号434頁)。つまり、一定の猶予期間が存するものです。これは、次に述べる脱退者、被除名者が他組合加入や新組合結成を行う場合も同様と解されています。
4 労働者は必ずユニオン・ショップ締結組合に加入しなければならないのか
団結権は憲法28条によって保障されているので、労働者の組合選択の事由や他組合の団結権も尊重されるべきことになります。したがって、既に他組合の組合員である者が解雇されないことはいうまでもありませんが、労働者(新入社員、脱退者、被除名者)が他組合に加入したり新組合を結成した場合には、もはやユニオン・ショップ協定の効力は及びません(三井倉庫港運事件・最一小判平元・12・14労判552号6頁)。そこで、特に、脱退者、被除名者の場合には、使用者は、ユニオン・ショップ協定締結組合からこれらの者を解雇すべき旨の通告を受けても、解雇する前にこれらの者の他組合ないし新組合の加入状況を確認しなければならないことになります。
5 除名が無効の場合の解雇の効力
労働者が組合から除名されたとして使用者が解雇を行っても、除名が無効であれば、使用者に解雇義務が存しないこととなるため、解雇も権利濫用で無効となります(前掲・日本食塩製造事件・最判)。その場合、使用者は民法536条2項にしたがって解雇期間中の賃金を労働者に支払わなければならないものです(清心会山本病院事件・最一小判昭59・3・29労判427号17頁)。
つまり、ユニオン・ショップ協定が締結されている場合には、使用者は除名無効のリスクを負わなければならないことになります。
客員弁護士 三井正信
2022年2月28日執筆