コラム「分配可能額の算定について」
1 はじめに
上場会社において、分配可能額を超える剰余金の配当および/または自己株式の取得がされたとの報道が相次いでいます。
会社の経理管理体制(財務に関する内部統制)が有効性に疑念を持たざるを得ませんが、会社法の分配可能額の算定に関する規定の複雑さも要因として挙げられそうです。
本コラムでは、会社法の分配可能額算定に関する規律を、最近の報道事例を踏まえて概観しようと思います。
2 分配可能額の算定に関する会社法の規律
分配可能額算定の手順は以下の通りです。
①最終事業年度末日の剰余金の額を計算し、②最終事業年度末日から剰余金の配当または自己株式の取得(以下ではまとめて「分配」という)の効力発生日までの剰余金の変動のうち、算入が認められるものを算入し、最後に③分配の効力発生日の剰余金の額から、会社法の観点から配当原資に含めるべきでないとされている項目(自己株式の帳簿価額やのれん、繰延資産の一部など)を控除して分配可能額を算定いたします。
最終事業年度末日の剰余金の額は、最終事業年度末日の資産の額と自己株式の帳簿価額の合計額から、会社法446条1号(以下条文のみ記す)および会社計算規則(以下「計算規則」という)149条に規定される各項目を控除した額として計算されます。控除項目の中に控除項目が含まれ、複雑ですが、全てを計算すると、ほとんどの項目が消去され、その他資本剰余金とその他利益剰余金のみが残ります!
最初から「事業年度末日のその他資本剰余金とその他利益剰余金」と規定しておけば、解りやすいですよね。
3 分配の効力発生日の剰余金の額
分配の効力発生日までに生じた剰余金の変動のうち、算入が認められる項目は446条2号から7号および計算規則150条に列挙されています。これで分配の効力発生日の剰余金の額(461条2項1号)が算定されます。
中間配当を実施する場合、期中に実施した剰余金の配当は算入(減額)します(446条6号)が、効力発生日までに生じた期中の利益は、441条に規定する臨時計算書類の手続を踏まない限り、算入することはできません。
報道事例では、臨時計算書類を作成せずに、中間決算の利益を算入した例がいくつかありました。
4 分配の効力発生日の剰余金の額から控除すべき諸項目
控除すべき諸項目は、461条2項2号から6号および計算規則158条に列挙されています。分配の効力発生日の剰余金の計算までは、会計基準に則った規律ですが、この段階に至って会社法独自の発想から分配可能額を規律しています。
報道事例では、その他有価証券差額金の差損を控除していない例が見られます。
貸借対照表の純資産の部に計上されている評価・換算差額等は、分配可能額の算定要素には含まれません。したがって、その他有価証券差額金や土地再評価差額金の差益が計上されていても、当該差益金は分配可能額に算入されません。しかしながら、これらの差額金に差損が生じている場合には、当該差損を分配可能額から減額します(計算規則158条2号3号)。
5 自己株式について
自己株式の取得・処分と分配可能額との関係は、分配効力発生日の剰余金の額の算定と同額からの控除項目にまたがって規律されているため、かなり解りにくくなっています。
結論を言えば、効力発生日に計上されている自己株式の帳簿価額を効力発生日の剰余金の額から控除するだけです(461条2項3号)。分配の効力発生日までに自己株式を取得した場合には、取得額だけ分配可能額が減額されますが、この減額をしていなかった会社が何社かあったようです。
他方で自己株式を処分すれば、効力発生日の自己株式の帳簿価額は減額(分配可能額は増加)されます。処分により生じる差損益は、会計基準に従い、その他資本剰余金の額を増減させ(計算規則15条2項1号)、この増減は分配の効力発生日までに生じた剰余金の変動に算入されます(446条2号)。他方で処分の対価の額を、効力発生日の剰余金の額から控除することとしています(461条2項4号)ので、自己株式の処分の差損益は消去されてしまいます。
2024年1月31日執筆
客員弁護士 片木晴彦