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コラム「リース会計の改訂について」

1 改訂リース会計基準について

本年5月2日、企業会計基準委員会は,企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」を公表しました。

 

リースをめぐる会計基準について,わが国ではまず企業会計審議会から平成5年(1993年)に,「リース取引に係る会計基準」が公表され、続いて企業会計基準委員会から平成19年(2007年)に現行の「リース取引に関する会計基準」が公表されました。

現行の会計基準では,いわゆるファイナンス・リースと定義されるリース取引については,借手がリース資産と未払いリース債務を貸借対照表に計上し,資産の償却費とリース料支払額のうち利息に相当する額を費用として計上する処理が求められます。これに対して,オペレーティング・リースとされる取引では,借手は通常の貸借取引として、リース資産を退職対照表に計上することなく、支払いリース料全体をリース料として費用計上します。

 

これに対して、公開草案では,オペレーティング・リースを含むすべてのリースについて,リース資産の資産計上と未払いリース債務の負債計上を求めています。これは,国際会計基準(IFRS第16号)との整合性を求めるものです。

この結果,航空会社や船会社(定期傭船契約を利用する場合)、店舗や店舗の土地を賃貸借する商業施設を営む会社、サブリース事業を営む不動産会社などで,資産,負債が大きく膨らむことが予想されます。

公開草案の正式の採択は、今年中にも予想されますが,適用開始時期については,採択から2年程度経過した日を予定しているようです。

 

2 改訂リース会計基準の上場会社以外に対する適用

日本商工会議所等が制定する「中小企業の会計に関する指針」は,現行のリース会計基準にかかわらず,所有権移転外ファイナンス・リース(ファイナンス・リースではあるが,リース期間終了後またはリース期間中に、リース物件の所有権が借手に移転することが予定されていないもの)については,貸借取引として処理することを認めています。これは,平成5年制定の「リース取引に係る会計基準」で認められていた処理方法を踏襲するものです。

公開草案が正式の会計基準となった後は,指針の取り扱いが変更される可能性はありそうです。

なお,税法上は,ファイナンス・リース取引全体がリース資産の売買として扱われ、支払いリース料は減価償却費などとして損金算入され,オペレーティング・リースについては通常の賃貸借として支払リース料を費用処理することが規定されていますが,公開草案が正式の会計基準となった後には,このような処理方法についても改訂が予想されます。

 

3 資産・負債の拡大がもたらす影響

オペレーティング・リースを含むすべてのリース取引について,資産・負債の計上が求められるようになると,資産に対する利益の比率(総資産利益率)や自己資本比率が見かけ上低下することになります。

未上場の企業にこの会計処理が求められる場合,より深刻なのは負債の額が拡大する結果,会社法上の大会社(最終の貸借対照表の負債の額が200億円以上:会社法2条6号ロ)に該当することになり,会計監査人の選任(会社法328条)や監査の範囲を会計に関するものに限定されない,業務監査権限を有する監査役の選任(会社法327条3項・389条1項かっこ書き)が求められるようになることでしょう。

 

2023年7月31日執筆

客員弁護士 片木晴彦