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コラム「担保法制の見直しと金融実務の改革」

1 新たな融資の在り方についての模索

我が国では、経済の力強い回復と持続的な成長をめざして、その牽引役となるスタートアップの育成・支援が急務とされています。そこで問題となるのが、企業の発展・成長に不可欠な資金をどのようにして調達するかです。

これまで、企業が資金を調達するためには、所有する不動産等を担保として、あるいは経営者保証によって金融機関から融資を受けるという方法が一般的でしたが、スタートアップの多くは担保となり得る不動産を持っていない等の事情から、これらの方法で融資を受けることが困難です。そこで、不動産等の有形資産の担保や経営者保証に依存しない融資のあり方が模索されてきました。

 

2 事業性に着目した融資実務(金融審議会WG)

その中心となった金融庁では、令和元年に金融検査マニュアルを廃止し、企業の事業の実態や将来性を見据えた融資、これに整合的な検査・監督、すなわち、地域や業種の特性を踏まえ、事業全体が生み出す将来の収益を視野に入れた信用リスクの評価を重視する方針を明確にしました。そして、このような方針に基づいて、令和4年11月に金融審議会に、事業性に着目した融資実務を支える制度を検討するワーキング・グループが設けられ、翌年2月に報告書を公表しました。

ここでは、英米の事業全体を担保の目的とする制度やその実務慣行に対する分析に基づき、事業全体(事業活動から生まれる将来のキャッシュフローを含む)を担保の目的とする事業成長担保権、債務者の特性に応じた財務コベナンツ条項(金融機関が融資先に一定の財務比率等の遵守を約束させ、違反した場合には債権回収を実行する旨の条項)の設定、これに基づく財務状況のモニタリング、事業価値の換価のための多様な選択肢(債務者との合意に基づく事業譲渡、裁判所が関与しない強制的な担保権の実行方法)、さらには、事業譲渡の際の労働債権者や商取引債権者への優先弁済などが提案されています。

 

3 担保法制の見直し(法制審議会担保法制部会)

法務省では、令和4年4月に法制審議会担保法制部会で、動産・債権等を目的とする担保法制の見直しが始まり、翌年12月に、事業を一体として担保目的とする事業担保制度の導入を含む「担保法制の見直しに関する中間試案」が公表されました。中間試案では、動産・債権を目的とする譲渡担保や所有権留保に適用されるルールの明確化に向けた検討とともに、企業の有する原材料・在庫などの集合動産や売掛代金債権などの集合債権を目的とする担保権の設定・実行についての法規定の整備、さらには、無形資産を含めた事業全体を担保の目的とする事業担保制度の導入に向けた検討がされています。

 

4 今後の動き(新たなメインバンクの出現?)

今後は、法制審議会で担保法の分野での新たな立法に向けた提案がされ、これを踏まえて、金融庁を中心に金融実務の変革の方向性が示されることになると思われます。

企業への役員の派遣や株式の持ち合いに象徴されるかつてのメインバンクの制度は姿を消して久しいですが、今後は、事業性に着目した新たな融資実務のために融資先の事業・財務の状況をモニタリングするとともに、融資先に専門的助言を与え、事業価値の維持・向上に尽力する新しい時代のメインバンクが出現することになるのではないでしょうか。

 

客員弁護士 田邊 誠

2023年5月31日執筆